2023年10月30日
研究室大学院4年の日髙尚子先生と京都大学大学院医学系研究科 社会疫学分野の井上浩輔先生のダブルファーストオーサーの論文がJACCのオープンアクセス誌、JACC Advancesにアクセプトされました。
2008年にNew England Journal of Medicineに透析開始1年後の死亡率と透析開始時の血中C端FGF23濃度の正相関が、血中リン濃度よりも強く確認され、多因子で調整しても有意差が残ったという報告がなされ、2011年にJournal of Clinical Investigationに、保存期慢性腎臓病症例(CRICコホート)において血中C端FGF23濃度と左室肥大の程度が相関し、マウスの実験でリコンビナントFGF23が直接心肥大を起こすという前述のNEJMの内容を支持する報告がなされました。
以降、FGF23は特に慢性腎臓病症例や透析症例に置いて直接心肥大を惹起して死亡率を増加させるものと信じられてきました。しかし我々は①高リン血症のみではなく、鉄欠乏状態 or EPO (ESA)、慢性炎症なども慢性腎臓病患者では血中のC端および全長FGF23濃度を増加すること、②前述の2008NEJMや2011JCIではこれらの因子による調整がなされていないこと、③2011JCIの動物実験はマウスの心臓に濃度の濃いFGF23を直接注射するなどといった結果ありきで実施されたと思われるかなり強引な研究であることなどから、 慢性腎臓病患者、透析患者でのFGF23と死亡率との強い相関は、高リン血症および 鉄欠乏状態 or EPO (ESA)、慢性炎症といったそれ自体が死亡率を上げると思われる別の病態が共通する交絡因子として働いている直接的な因果関係を持たない相関関係であると考えておりました。
そこで今回、NIDDKにCRICのデータの使用許可を頂き、FGF23と心肥大や総死亡などの得られる相関関係を、新たに鉄欠乏やESA使用、炎症関連マーカーなどで追加で調整することで、FGF23と総死亡などの相関関係を消すことができないかを検討致しました。
残念ながら鉄欠乏関連のデータが、実施者からの使用許可がまだ出ていなかったため、追加での補正は炎症関連マーカーとESAのみとなってしまい完全な相関の打ち消しには至りませんでしたが追加の調整によって心血管イベントや全死亡などのリスク比は低下することが確認できました。
またmediation analysisの手法にて心血管イベントや全死亡の増加は心肥大をほとんど介さずに起こっているということが確認でき、当初の目的とは異なるものの、少なくともFGF23>心肥大>死亡率増加の流れは理論的に否定できたという結果になります。
腎臓内科医や内分泌内科医で、透析患者でのFGF23低下が生命予後延長に寄与するのではと(我々からしたら)思い違いされている先生方が依然多いと感じ行った検討となります。今後、我々が本来目的としている重要な因子での調整による、FGF23による死亡率増加への直接的な影響の理論的な否定を目的とした検討を日本のコホートなどで実施できればと考えております。
日髙先生JACC関連雑誌のアクセプトおめでとうございます!
また国を越えて貴重なデータを供与頂いたNIDDKの懐の広さには感銘いたしました!
最後にこの場を借りて、当研究室の統計解析、機械学習を利用した解析を暑くサポートしてくれている 研究室大学院4年の日髙尚子先生と京都大学大学院医学系研究科 社会疫学分野の井上浩輔先生への心からの感謝を申し上げたいと思います。