ビタミンD欠乏症・依存症

ビタミンD欠乏症/依存症

ビタミンDはきのこや魚介類などから摂取、または紫外線によって皮膚で産生され、肝臓で25水酸化ビタミンD(25OHD)となり、最終的に腎臓や腸管、副甲状腺、骨などの局所で活性型の1α,25水酸化ビタミンD(1,25(OH)2D)と変化して局所のビタミンD受容体に作用し、血液中のカルシウムとリン濃度を基準値内に調整しています(図1)。

血液中の活性化ビタミンDである1,25(OH)2Dの濃度は腎臓で産生されたものしか反映されず、血中のカルシウムやリン濃度、骨密度などと相関しません。そのためビタミンD欠乏症の判定には25OHDが使用されており、国内外で20 ng/ml未満をビタミンD欠乏症、30 ng/ml未満をビタミンD不足と判定しています(図2)。また低リン血症による骨軟化症を惹起している場合には、ビタミンD欠乏症性骨軟化症の診断の前に血中FGF23を測定することなどで、FGF23関連低リン血症性骨軟化症などの他の低リン血症性疾患を鑑別診断する必要があることにご留意ください(図3)。

ビタミンD不足~欠乏症(25OHD<30ng/ml)では血液中のカルシウム濃度が低下することで、カルシウム濃度を維持するために二次性副甲状腺機能亢進症が生じ、増加した副甲状腺ホルモン(PTH)が骨吸収を促進するために続発性骨粗鬆症を生じる可能性があります(図2)。
一方でビタミンD欠乏症(25OHD<20 ng/ml)では血中のリン濃度が低下することで小児ではくる病、成人では骨軟化症を発症することがあり、小児では成長障害や著明なO脚、X脚を、成人では偽骨折(図4)による全身痛や骨折を起こすやすくなります(図2)。

治療は天然型~活性型ビタミンDの補充であり、重症のビタミンD欠乏性骨軟化症であっても1~2年で全身の骨石灰化の改善を認めます(図5図6)。

しかし一般にこのような病態があまり知られておらず、また “ひび” のような不全骨折である偽骨折(図4)はレントゲンに映りにくく骨シンチ(図6)などをおこなわないと分かりにくいことなどから、実際にはビタミンD欠乏症性骨軟化症であるにもかかわらずリウマチ・膠原病内科や整形外科、神経内科で関節リウマチや線維筋痛症、脊柱管狭窄症、骨粗鬆症などの疾患と誤って診断され、効果の望めない治療を受けている方を非常に多くみかけます(表1)。またビタミンD欠乏症の診断においても、誤って25OHDではなく1,25(OH)2Dを測定してしまい適切な診断に辿り着いていないことも多いようです。このようにビタミンD欠乏症性くる病・骨軟化症は改めて関係各科の医師や患者さんに啓発が必要な疾患であり、まさに古くて新しい病気と言えるかと思います。

具体的に、本症を含む骨軟化症症例の他の疾患への誤診断をより少なくするためには、リウマチ・膠原病内科や整形外科、神経内科、総合内科を受診する全身痛や筋力低下、易骨折性、骨粗鬆症を呈する症例全例で血清リン(低下)、カルシウム(正常~低下)、アルカリホスファターゼ(類骨の増生を表し上昇)、アルブミン(血清カルシウムの補正に必要)を測定し骨軟化症を鑑別して頂くべきかと考えています。したがいまして当研究室では整形外科や膠原病・リウマチ内科で外来を担当する先生方を対象として、続発性骨粗鬆症の原因として比較的頻度の高い原発性副甲状腺機能亢進症と、骨粗鬆症類縁疾患の原因として比較的頻度の高い骨軟化症を外来で簡便にスクリーニングするための上記4検査項目①カルシウム、②リン、③アルカリホスファターゼ、④アルブミンの採血を推奨しています(表2)。

他方、東アジアでは成人男女のおよそ70%で25OHDが20 ng/ml未満であることが知られております(Lu 2009 Diabetes Care)。しかし、実際にこれらのビタミンD欠乏症の人のほとんどは骨軟化症を起こしません。また一方で、偏食もなく日光もしっかりと浴びている方がビタミンD欠乏症骨軟化症を起こすこともあります。これらの事実を考慮すると、我々は単純に血中の25OHD が20 ng/ml未満であることのみでビタミンD欠乏症性骨軟化症を惹起するのは、寝たきり状態で適切なビタミン補充がなされていない方や、神経性やせ症、高用量のステロイドの長期間投与といった血中のビタミンD濃度が長期間極度に低下するような病態でしか起こり得ず、ごく一般的な生活をおくっている方が軽度のビタミンD欠乏症で骨軟化症を起こす場合には別の要因が絡んでいるのではないかと考えています。

上記の要因の一つとして、ビタミンD依存症のヘテロ症例(病気をおこす遺伝子異常が2つある染色体の片側にのみ存在)が、軽度のビタミンD欠乏症で低リン血症性骨軟化症を起こす可能性を想定しています。ビタミンD依存症とはビタミンDの活性化経路にかかわる酵素やビタミンDの受容体をコードする遺伝子に異常がある疾患で、ビタミンD依存症のホモ症例(病気をおこす遺伝子異常が2つある染色体の両側に存在)では生まれながらの重度の骨軟化症により重度の骨変形や低身長を呈し、歩行がままならないこともしばしば認めます。

具体的にはビタミンDを肝臓で25OHDに変換する酵素(25OHase)、作用部位(腎臓、腸管、副甲状腺、骨など)で1,25(OH)2Dに変換する酵素(1αOHase)をコードする遺伝子の不活性型変異や肝臓で25OHDと1,25(OH)2Dを代謝し不活性化させる酵素(P450C3)をコードする遺伝子の活性型変異、作用部位のビタミンD 受容体(VDR)をコードする遺伝子の不活性型変異やそのVDRの作用を阻害するタンパク(hnRNP-C)をコードする遺伝子の活性型変異といった5つの原因遺伝子がビタミンD依存症に対してこれまでに報告されています(図7)。

実際にビタミンD依存症のヘテロ症例がごく一般的な生活をおくっているにもかかわらず、ビタミンD欠乏症性骨軟化症を発症する成人症例に多く含まれているとすると、障害されている部位に応じて、治療に使用するビタミンDの種類や量を変更する必要性が生じます。

ビタミンD依存症の診断をおこなうためには遺伝子検査が必要となりますが、我々は実際のビタミンD依存症のヘテロ症例の頻度を確認するために1回の検査で上記5遺伝子のエキソン領域(タンパク質をコードする領域)を同時に解析できる遺伝子診断パネル(表3)を準備いたしました。より適切な患者さんへの治療方針の決定にも重要な臨床研究と考えておりますので、成人となってビタミンD欠乏症性骨軟化症を発症した患者さんがおられましたら、正確な病態の把握のために当施設へのご受診/ご紹介を検討して頂ければ幸いです。

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